夏休み明けの第12戦オランダGPは、ホンダの新スペックPU(スペック2)のレースデビュー戦だった。結果だけ切り取れば上出来。フェルナンド・アロンソが9位に入り、アストンマーティンにとって今季ベストリザルト、そして今季2回目の入賞になった。
ただ、そこに至る道のりは荒れていた。金曜のスプリント予選でアロンソは22番手、つまり最下位。SQ2進出ラインには1秒以上届かず、チームメイトのストロールにも0.6秒差をつけられた。本人はブレーキング中にエンジンが出力を出しすぎてクルマが止まらない。おまけにSLM(リヤウイングを開く低ドラッグモード)も作動しなかったとのこと。
オランダGPを終えたアロンソは、最初のエンジンで改善していたものが少し振り出しに戻ってしまった、という趣旨の見方を示している。ホンダのチーフエンジニア、折原伸太郎も、ドライバビリティには改善の余地があると認めた。パワーは内部目標を達成、乗り味は宿題。そういう週末だった。
アロンソのザントフォールト3日間を並べるとこうなる。
| セッション | アロンソ |
|---|---|
| スプリント予選(金) | 22番手 |
| スプリント(土) | 18位 |
| 予選(土) | 18番手/Q1敗退 |
| 決勝(日) | 9位 |
そしてもう一つの火種がアロンソの去就。契約は2026年いっぱいで切れる。夏休み明けに決断すると言い続けてきたが、8月末になっても発表はない。エイドリアン・ニューウェイは夏休み前の時点で、アロンソはチームでの時間を楽しんでいるはずで関係は続くと確信している、という趣旨の発言をしている。次戦はモンツァ、決勝は9月6日。
ソフト側にまだ削れる時間がある
テストの段階で、各チームはソフトウェアのアルゴリズムからごっそりタイムを見つけていた。世代を新しくしたホンダにも、まだ掘れる余地は残っているはずだ。
アロンソのホームレースに間に合うように見つけてほしいね。
なぜフィルミングデーで正ドライバーを走らせなかったのか
フィルミングデーでのAMRホンダのやり方は妙だ。200kmの走行機会で、パワーだけでなくアップグレードPUのドライバビリティも確認できたはずなのに、アロンソにもストロールにも乗せず、バックアップドライバーに任せた。そしてその彼はドライバビリティの問題に気づけなかった。レギュラーのどちらかが走っていれば、ホンダには3週間の猶予があったんだ。
自分も最初はそう思った。ただ、あの期間は作業できなかったんじゃないか。詳しくはないが、何らかの制限があった気がする。
ホンダはテスト後に、ザントフォールトまでにドライバビリティに取り組むと言っていたはずだ。ただデータがあまりに限られていたから、レースまでには足りなかったのかもしれない。
ドライバビリティなんてレースドライバーなら誰でもわかる。データでも、乗った感触でも。
同意はするが、シーズンを通してそのクルマに乗り続けてきたドライバーなら、挙動が変わった部分を拾える。良し悪しではなく、変化そのものが重要なんだ。
ハンガリーで新しいクルマを走らせたばかりで、フィルミングデーでも同じ新型車を使った。違うのはエンジンだけ。アロンソかストロールが乗っていれば数周で問題に気づいて、ホンダにもっと正確なフィードバックを返せたはずだ。夏休み中はアストンもホンダも作業できなかったのかもしれないが、それでも準備に3週間あった。ザントフォールトでもアロンソはFP1で25周、スプリント予選で5周走っただけでドライバビリティの問題を報告している。ホンダは一晩で手を入れて、土曜はスプリントも予選もクルマがかなり良くなっていた。
ドライバビリティは調整がいちばん難しい領域
ホンダのPUスレッドで共有されていた記事を読む限り、ここがいちばん調整の難しい部分だと思う。
ドライバーを説得するのに、エイドリアン・ニューウェイと差し向かいで話す以上の材料がどこにあるっていうんだ。
それでもアロンソがまだサインしていないことを考えると、引退に傾いているような気がしてならない。
ホンダがアロンソの年俸を肩代わりする説の真偽
ストロールがホンダに、アロンソの年俸の一部を2027年と2028年で4000万分負担させたがっている、という報道がある。サインが遅れているのは、自分以外に本気の選択肢がチームにないと分かっていて、また中団に沈むならせめて金銭面で取れるだけ取ろうとしているからだと思う。ニューウェイがいるチームを去る覚悟は、まだできていないんじゃないか。去る可能性は残っているし、頂点で終わりたい気持ちもあるだろうけど。この状況なら残れば大金が入る。
ホンダがアロンソの年俸の一部を払うなんて筋が通らない。アストンマーティンとホンダの合意は、エンジンの対価を払うという話だろう。
マクラーレン時代、ホンダはPUを無償供給したうえに1億ドルを渡していた。
アストンとホンダの当初の契約には性能条項がある。2年契約で、エンジンがダメなら2年で直す、さもなくばサポートを失う。開発費はホンダが全額負担。供給されるエンジンの費用は完全に無償(ただし予算上限枠としては計上できる)。エンジンの出来次第で、ホンダが第2シートに影響力を持てる(ストロールを角田裕毅に差し替える)。そして今回の惨憺たる立ち上がりで、ローレンスがアロンソの費用をホンダに持たせようとしている。ホンダは、次の4戦でエンジンをどこまで改善できるか見極めるまで態度を保留している。
それがあるからといって、やらない理由にはならないと思う。マクラーレン時代にも年俸の一部を負担するという話はあった気がする。実際に払ったかどうかは知らないが。ホンダが無理やりやらされるという話でもない。今はホンダ側も彼に残ってほしいはずだ。ただストロールは、シーズン開幕からの状況を考えればトップドライバーが列をなしていたわけではない、という論法で押してくるだろう。少なくともアキュラ/ホンダのNSXは贈られていた。あれが年俸に数えられるかは議論の余地ありだけどね。
仮に本当なら、ホンダとAMR F1の契約のどこかに、それを可能にする条項があるんだろう。
全部筋が通っている。個人的には、あり得る話だと思う。
アロンソがフェラーリで似たような駆け引きをやって失敗し、ベッテルに置き換えられた件を扱ったThe Raceの動画をたまたま見た。PR的にも最悪だった。ホンダの過去を考えると、アロンソの年俸負担が本気で検討されたことがあるとは思えない。
エンジン次第で第2シートに口を出せる、という話への反発
エンジンが良ければホンダがストロールを角田裕毅に差し替えられる、なんて角田ファンのおとぎ話だろう。
自分もかなり眉唾だと思う。角田は去年ストロールよりポイントが少なかったし、しかもレッドブルに乗っていたんだぞ。
自分が信じているのはドライバーに影響力を持てるという部分で、選ぶ権利まではないと思う。
ホンダが将来のドライバー選定に口を出せるという条項のどこかに入っているのかもな。まあ何にせよ、ハミルトンやルクレール級の年俸を払うわけじゃない。大口スポンサーもいるんだから、どこかから捻出できるだろう。
呼び出されるマクラーレン・ホンダの記憶
マクラーレンはドライバーズ9回、コンストラクターズ8回のタイトルを持っていた。アストンマーティンは前身を含めてゼロだ。しかも当時の直近のドライバーズタイトルは、交渉のわずか2、3年前の話だった。
だがマクラーレンにはPUがなかっただろう。自動車事業を手放さない限りメルセデスとは続けられなかった。つまりホンダは相手の弱みを握っていたわけだ。そのうえ当時のホンダの名前はF1で輝いていた。2015年と2026年の出だしのまずさで傷つく前の話だよ。
自動車事業のことは分からない。自分の理解では、ロン・デニスがワークスチームになりたがっていて、ホンダの側も復帰に前のめりだった。
メルセデスはマクラーレンに、自動車事業をやめるかPU供給を打ち切るかを迫った。ホンダは前のめりどころか、準備が整っていないから2016年か2017年まで始めたくなかったんだ。それでもマクラーレンは、どこかからPUを調達する必要に迫られていた。
アストンマーティンに代役はいるのか
もしアストンがアロンソは再契約しないと思っているなら、今ごろ誰かを探して走り回っているはずだ。ニューウェイは、彼を引き留められると思う、という調子で言い続けていて、引き延ばしているようにも見えるが、疑っている様子はほとんどない。すでに残留の意思は伝えられていて、細部の詰めを待って発表するだけなんじゃないか。おそらく2週間後のスペイン戦までに。
焦る必要なんてまったくない。角田裕毅は事実上いつでも呼べるし、ジャック・クロフォードのような人材もいて、ストロールがチームを引っ張る形にもできる。正直、セルジオ・ペレスだって声がかかれば移ってくるだろう。とはいえアロンソが残るのは明らかだと思うけどね。
角田は2026年のレッドブルと契約しているはずだ。クロフォードは1戦だけ呼べるタイプで、1年間クルマを任せる相手ではない。
ドゥルゴビッチを呼ぶ手もある。まともなチャンスをもらえていない、気の毒な男だ。
だな。ほかの候補よりは彼が乗るところを見たい。
2018年と同じ空気、そしてモンツァという試金石
天邪鬼で申し訳ないが、2018年スペインGPでアップデートが失敗した後のアロンソの沈み方を覚えている。あそこから彼は惰性で走っているように見えて、夏休みには引退を発表した。今の彼から同じ空気を感じるんだ。
だからこそモンツァが重要になる。もしAMRがモンツァで入賞できれば、エンジンがちゃんと機能している証明になる。ハンガリーもオランダも、AMRがコーナーでは中団勢よりはっきり速いことを示していたからだ。ホンダのゲインは10馬力程度と言われていて、しかもその10馬力はドライバビリティの問題で相殺された、という指摘もあった。モンツァに向けては、最低でも20馬力と、ドライバビリティ問題の5、6割の解消が必要だ。
アロンソの代わりは本当にいないのか
アロンソがどこかのチームに行くと、そのチームのスレッドの伸びが目に見えて変わるのに気づいた人はいるか。アストンが3年連続でひどかった時期ですら、追いかける層は一定数いた。ホンダ加入のときも伸びたし、もちろんニューウェイのときもだ。何が言いたいかというと、角田もドゥルゴビッチもクロフォードもアロンソではない。トラック上でも、スポンサーの目から見ても。クロフォードや角田を簡単に確保できるからアストンはアロンソ流出を心配していない、と思っているなら感覚がズレている。アロンソ、ルクレール、マックス、ハミルトンがAティア。角田とアルボンはBティア。ジャック・クロフォードは評価としてはCティアだ。アストンもスポンサーもAティアのドライバーを求めている。プロジェクトが軌道に乗るまでは特に。Aティアでないと分かる指標もある。1つ、チームメイトに完全に押さえ込まれている。2つ、その後チームから放出されている。3つ、そもそもタイトルを獲れそうにないと世間に思われている。トップチームに入れないか、入っても同僚に負ける可能性が高いか、どちらかの理由でな。
アロンソだけの効果じゃないだろう。ニューウェイもいたし、その後のホーナー関連の憶測もあった。
アロンソはオコン相手に特別だったわけじゃない。モチベーションの低いストロールと組んでいることが評価を甘くしている。去年は目立つミスもあった。今も良いドライバーではあるが、2012年の彼ではない。最高のマシンでマックスやシャルルと戦ったら、特に一発では苦戦すると思う。アストンは再建中なんだから、トップドライバーを持たないという選択もできるはずだ。
アロンソをタイトル争いのできるクルマに乗せれば、2012年の男がまた見られると思う。ただアストンが、実際にはホンダが、2028年までにそれを実現できるかというと自信はない。間違っていてほしいけどね。
アロンソはモチベーションがあればもっと結果をだせるはず。ホンダは正念場だな。
出典:F1Technical.net

