アクティブエアロとは、F1マシンのフロントウイングとリアウイングのフラップ角度を、走行中に動的に変化させるシステムである。コーナーではフラップを閉じて高ダウンフォースで通過し、ストレートではフラップを開いて低ドラッグ状態に切り替えることで、最高速を引き上げる。2026年シーズンからF1に正式導入された新技術で、それまで15年間オーバーテイク補助として使われてきたDRSを置き換える存在だ。
従来のDRSが「リアウイングの一部だけを開く」「前走車から1秒以内のときだけ使える」という制約を抱えていたのに対し、アクティブエアロは前後のウイングが連動して動き、しかも全車が全周回で使用できる。この違いは、オーバーテイクの仕組みだけでなく、マシンのセットアップ思想そのものを書き換えるほどのインパクトを持っている。
レース中継では「ストレートモード」「コーナーモード」というワードで説明されることが多い。ウイングがパタパタと開閉する映像を見て、これはDRSと何が違うのか、と引っかかった人もいるだろう。違いは、見た目より奥にある。そもそもアクティブエアロは、オーバーテイクを増やすためだけに作られた装置ではない。
アクティブエアロの仕組み
コーナーモードとストレートモード
アクティブエアロの動作は、二つのモードに集約される。コーナーモードとストレートモード。基本は、この二つの切り替えにある。
コーナーモードは、マシンの基本姿勢である。前後のウイングのフラップが立った高角度の状態にあり、ダウンフォースを最大限に発生させる。コーナーはこの状態で通過する。メカニカルグリップと空力グリップを両取りして、高い旋回速度を得る。
ストレートモードは、その逆だ。フロントウイングの2要素フラップとリアウイングのフラップが開き、ウイングが寝る。空気抵抗が大きく減り、ストレートでの最高速が伸びる。

ストレートモードを使えるのは、FIAが事前に指定した区間だけである。目安は、一定以上の長さを持つストレートだ。切り替えはドライバーの操作またはECUの自動制御で行われ、コーナー進入でブレーキを踏むと、自動でコーナーモードに戻る。
名称にも一度、変更が入っている。FIAの規則案では当初「Z-mode」「X-mode」という記号的な呼び方だったが、2025年12月に改称され、いまは機能をそのまま表す「コーナーモード」「ストレートモード」に統一された。
前後ウイングが連動することの意味
前後が連動する。この一点が、DRSとの決定的な違いになる。
DRSは、リアウイングのフラップだけを開く仕組みだった。単純で分かりやすい。だが、その単純さには代償があった。フラップが開くとリアのダウンフォースだけが抜け、マシンの空力バランスが前寄りに崩れる。チームは、DRSを開けた状態と閉じた状態のどちらでも破綻しない妥協点を探して、フロントウイングのセッティングを詰め切れずにいた。
2026年のシステムは、ここを解いた。コーナーモードからストレートモードへ移るとき、フロントとリアが同時に動く。だから、エアロバランスを保ったまま、ダウンフォースの総量だけを増減できる。チームはコーナーモードとストレートモードのそれぞれに独立したバランスの狙いを設定でき、どちらの状態でもマシンが安定して走るよう最適化できる。
悪天候時の「部分アクティブエアロ」
雨が降ったら、どうなるのか。
2026年規則には、コンディションが悪化したとき用の部分アクティブエアロが用意されている。切り替えるのはレースコントロールだ。フロントウイングだけがストレートモードに移り、リアウイングは閉じたまま残る。リアの安定を守りながら、フロント側でドラッグをいくらか削る。かつてDRSがウェットで使用禁止になっていたのと、根は同じ発想である。
なぜアクティブエアロが必要だったのか
では、オーバーテイクのためだけでないなら、この装置は何のために生まれたのか。理由は、空力よりもパワーユニットの側にある。
2026年の新しいPUは、MGU-Kの最大出力を120kWから350kWへと引き上げた。エネルギーのおよそ半分を、電気でまかなう設計である。ところが、これだけの電力を使うとなると、別の問題が顔を出す。ストレートエンドまで電気を保たせるのが難しくなるのだ。空気抵抗を従来のままにしておけば、電力が先に尽き、マシンは失速しかねない。
だから、ドラッグそのものを根本から削る必要があった。その解が、前後のウイングを動かすアクティブエアロである。オーバーテイクを増やすためだけの装置ではない、というのはこういう意味だ。新しいパワーユニットを成立させるための、必須の装備でもある。
FIAは2026年規則の全体で、ドラッグを55%、ダウンフォースを30%削ったと公表している。この大幅な削減も、電力を保たせるという同じ狙いの延長線上にある。
DRSとオーバーテイクモード
「アクティブエアロは新しいDRSだ」。そう説明されることは多い。だが、厳密には正しくない。
アクティブエアロは全車が全周回で使える。つまり、もう「追う側だけが得をする」仕組みではない。前走車も後続も同じようにストレートモードへ切り替えられるから、ストレートでの相対速度差はDRS時代より縮まる。
では、オーバーテイク補助はどこへ行ったのか。別の仕組みに移された。2026年から導入されたオーバーテイクモードがそれだ。前走車の1秒以内に入ったドライバーは、通常なら290km/hからテーパーオフしていくMGU-Kの出力を、337km/hまで350kWのまま保てる。加えて、1回の発動につき0.5MJの電力が上乗せされる。オーバーテイクを助けるのは、もう空力ではない。電気のパワーだ。
この仕組みにも、改称の経緯がある。策定当初は「マニュアルオーバーライドモード(Manual Override Mode、略してMOM)」と呼ばれていたが、2025年12月、アクティブエアロのモード名と同じタイミングで「オーバーテイクモード」に改められた。
アクティブエアロとオーバーテイクモードは、別々の装置ではあるが、セットで設計されている。二つが噛み合って初めて、2026年のオーバーテイクシステムの全体像が立ち上がる。
関連用語
- DRS(ドラッグリダクションシステム):2011年から2025年まで使われていたリアウイング可動式のオーバーテイク補助装置。アクティブエアロに置き換えられた
- オーバーテイクモード:2026年から導入されたMGU-Kの追加ブーストによるオーバーテイク補助。当初は「マニュアルオーバーライドモード」と呼ばれていた
- MGU-K:運動エネルギーを回収・放出するモーター。2026年から最大出力が350kWに引き上げられた
- パワーユニット(PU):F1の動力源。エンジンと電動モーターの総称
出典:formula1.com、Motorsport.com
最終更新:2026年04月

