就任わずか4ヶ月で退任へ
エイドリアン・ニューウェイが、アストンマーティンのチーム代表職を退く見通しであることが明らかになった。後任には、アウディのチーム代表を務めるジョナサン・ウィートリーが最有力候補として浮上している。複数の主要メディアが3月19日に一斉に報じた。
ニューウェイは2024年にアストンマーティンへの加入が発表され、2025年初頭からマネージング・テクニカル・パートナーとして活動を開始。同年末にはアンディ・コーウェルの後任としてチーム代表に就任した。しかしその就任からわずか4ヶ月、2026年シーズンの開幕直後という異例のタイミングで退任に動くことになる。
背景にあるのは、チームの壊滅的なシーズンスタートである。新パートナーであるホンダのパワーユニットは深刻な信頼性問題を抱えており、開幕2戦(オーストラリアGP・中国GP)でフェルナンド・アロンソ、ランス・ストロールのいずれも完走を果たせていない。オーストラリアGPでは激しい振動の問題が発生し、ニューウェイ自身が「一定以上の周回を走ると永久的な神経損傷のリスクがある」と認める事態にまで至った。
ニューウェイの本領はあくまで技術
今回の動きは「解任」というよりも、本来あるべき姿への修正と見るのが適切である。ニューウェイは就任当初からチーム代表職に対して積極的な姿勢を見せておらず、あくまで空席を埋めるための暫定的な措置であったことを示唆していた。
開幕戦オーストラリアGPではメディア対応をこなしたものの、第2戦中国GPには現地入りせずリモートで作業。代わりにチーフ・トラックサイド・オフィサーのマイク・クラックが現場を取り仕切った。また、ニューウェイはもともと全戦に帯同する予定ではなかったという。
F1史上最多となる26台のチャンピオンマシン設計に関わったニューウェイの強みは、誰もが認めるとおり技術領域にある。チーム代表としてのメディア対応、人事管理、F1の政治的な交渉といった業務は、本人の資質とは合致しないと以前から指摘されていた。今後はマネージング・テクニカル・パートナーとしてAMR26の開発に専念し、自ら「今年最高のシャシーになれるポテンシャルがある」と語るマシンの改良に注力する見込みである。
後任候補ウィートリー レッドブルでの20年間
後任の最有力候補であるジョナサン・ウィートリーは、レッドブルで約20年間にわたりチーフメカニックからスポーティングディレクターまでキャリアを築いた人物である。在籍期間中、チームはコンストラクターズ6回・ドライバーズ7回のタイトルを獲得しており、ウィートリーはその運営面の中核を担った。
2025年5月にレッドブルを離れ、マティア・ビノット率いるアウディ(旧ザウバー)のチーム代表に就任。2026年シーズンに向けた準備を主導してきた。しかしアウディでは、ビノットとの共同体制の中で通常のチーム代表ほどの裁量を持てていなかったとされる。
ニューウェイとウィートリーはレッドブル時代に長年共に働いた間柄であり、今回の人事にはニューウェイ自身の推薦があったと報じられている。アストンマーティンのシルバーストン拠点はレッドブルの本拠地からわずか約30km。ウィートリーにとっては英国への帰還という側面もある。アウディの拠点がスイス・ドイツ・英国に分散していたのに対し、アストンマーティンでは自宅から通える環境で働ける点も魅力的に映っているようだ。
移籍の時期はウィートリーのアウディとの契約条件に左右される。ガーデニングリーブ(競業避止期間)が長期に及ぶ可能性もあり、その場合はニューウェイがシーズン中は暫定的にチーム代表を続け、クラックがトラックサイドのリーダーシップを担う体制が維持される見込みである。
アストンマーティンの組織的課題
今回の人事異動は、アストンマーティンがここ数年抱えてきた組織の不安定さを改めて浮き彫りにしている。ローレンス・ストロールによるチーム買収以降、チーム代表の座はオトマー・サフナウアー → マイク・クラック → アンディ・コーウェル → ニューウェイと目まぐるしく交代してきた。
チーム代表はマシン開発だけでなく、スポンサー交渉、FIAとの折衝、メディア対応、チーム内の人事管理など多岐にわたる責任を負う。技術者出身のニューウェイにこの全てを求めるのは、そもそも無理があったという見方がパドック内では支配的だった。
アストンマーティンに必要なのは新たなプロジェクトリーダーではなく、レースチームとトラックサイドを束ねる実務型のボスである。ウィートリーはまさにその役割で長年キャリアを積んできた人物であり、ニューウェイが技術、コーウェルがホンダ・アラムコとのパートナーシップ、ウィートリーが日常のチーム運営という3分業体制が実現すれば、チームの立て直しの足がかりになる可能性がある。
アウディへの影響
一方で、ウィートリーの離脱はアウディにとって大きな痛手となる。2026年からワークスチームとしてF1に本格参戦したばかりのアウディは、ウィートリーを中心に組織づくりを進めてきた。参戦初年度のシーズン序盤でチーム代表を失うことになれば、内部昇格か外部招聘かを問わず、急ぎの対応を迫られる。
アウディの広報はThe Raceに対し「報道は把握しているが、現時点で公式な発表はない。憶測にはコメントしない」と回答している。
なお、アストンマーティン側もウィートリーの招聘を公式には認めておらず、広報は「ニューウェイはチーム代表およびマネージング・テクニカル・パートナーとしてチームを率いている。上層部の人事に関する憶測には関与しない」とコメントするにとどめている。
今後の注目ポイント
- ウィートリーのアウディとの契約解除・ガーデニングリーブの期間。合流が2026年シーズン中になるか、2027年以降になるかで影響が大きく変わる
- ホンダPUの信頼性改善の進捗。アストンマーティンの苦境はリーダーシップだけの問題ではなく、技術的課題の解決が急務である
- ニューウェイがテクニカル業務に専念した場合のAMR26の開発スピード。本人は「今年最高のシャシーになれる」と自信を示している
- アウディがウィートリー離脱後の体制をどう再構築するか。ビノットの下での内部昇格が有力とみられるが、外部からの招聘も排除できない
- 次戦は4月4〜6日の日本GP(鈴鹿)。ホンダのホームレースであり、PU問題の改善状況が注目される

