中国GPでメルセデスW17のフロントウイングが見せた奇妙な動きについて、その真相が明らかになった。The Raceの報道によれば、ライバルチームやファンの間で話題となった「2段階閉じ(two-phase closure)」は、意図的なグレーゾーンの活用ではなく、油圧システムの計算ミスによるものだったという。FIAもこの説明に納得しており、今のところ違反には問われていない。
メルセデスは2026年シーズン開幕から技術面で注目を集め続けている。開幕前にはパワーユニットの圧縮比を巡る論争が起き、6月からFIAが高温下での新しい測定方法を導入する方針が示された。そしてW17がオーストラリアGP・中国GPで連続1-2フィニッシュを飾り、圧倒的な速さを見せた直後に浮上したのが、今回のフロントウイング問題である。
何が起きていたのか
2026年レギュレーションで導入された、従来のDRSに代わるアクティブエアロは、フロントウイングとリアウイングの両方がストレートで開き、コーナーで閉じる。規則では、ウイングが2つの固定位置間を移行する時間は400ミリ秒(0.4秒)以内と定められている。
中国GPで撮影された映像には、キミ・アントネッリのW17がブレーキング時にフロントウイングを閉じる際、一度途中で止まり、さらに減速してから完全に閉じるという2段階の動きが捉えられていた。一部の分析では、完全に閉じるまでに約800ミリ秒かかっているとされ、規定の倍の時間を要しているように見えた。
油圧の計算ミス
報道によると、原因はメルセデスの油圧システムの設計にある。メルセデスのフロントウイングは、油圧を使ってフラップをコーナーモード(閉じた状態)に押し込む方式を採用している。他チームの多くがストレートモード時にフラップを引き下げる方式を採るのに対し、逆のアプローチである。
上海では、最高速度域でウイングにかかる空力負荷に対して、油圧の圧力が不足していた。高速走行中は気流によってフラップが押し戻される力が強くなるが、その力に打ち勝つだけの油圧が確保できていなかったのである。結果として、車速が高い段階ではフラップが途中までしか閉じず、減速してから完全に閉じるという現象が発生した。
メルセデスは予選中にこの問題に気付き、ジョージ・ラッセルのフロントウイングを交換。決勝に向けて修正を施したものの、アントネッリの車両では同様の症状が再び出ていた。レース後、ブラックリーの工場で油圧システムの改良作業が進められており、今週末の日本GPでは再発しない見込みだとされている。
FIAの対応とライバルの動き
複数のライバルチームがFIAに対して説明を求めた。当初はフェラーリが最初に問い合わせたとイタリア紙『Autoracer』が報じたが、フェラーリ自身はこれを否定。だが、最初に動いたのは別のチームだったという。(マクラーレン?)
FIAのシングルシーター担当ディレクター、ニコラス・トンバジスが率いる技術部門はメルセデスと協議を行い、ミスであるという説明に納得した。メルセデスが工場で修正に取り組んでいるという事実も、意図的な行為ではないことの裏付けとなっている。
むしろ、解析ではこの「遅い閉じ」はラップタイムにとってマイナスであることが示唆されている。ブレーキングフェーズで前後のダウンフォースバランスが崩れるため、ドライバーにとっては不利に働く。つまり、グレーゾーンの活用どころか、純粋なパフォーマンス損失だったわけである。
ただし、FIAは規則上の400ミリ秒という制限が厳格に適用されることを改めて明確にしている。今回の件をきっかけに各チームの注目度が上がったことで、今後同様の動きが確認された場合は対処に踏み切る可能性がある。
過去にもあった「グレーゾーン論争」
F1では新レギュレーション導入のたびに、各チームの解釈の違いが論争を生んできた。直近では2024年のアゼルバイジャンGPでマクラーレンのリアウイングが話題となった。走行中にリアウイングのフラップが規定以上にたわんでいるように見える映像が拡散し、FIAが調査に乗り出した。また、同じく2024年にはレッドブルのフロアのたわみを巡っても議論が起きている。
さらに時代を遡れば、2010年のマクラーレンのFダクト(ドライバーが体で穴を塞ぐことでリアウイングを失速させる仕組み)、2009年のブラウンGPのダブルディフューザーなど、ルールの隙間を突いた革新は枚挙にいとまがない。2026年のアクティブエアロは各チームに大きな設計自由度を与えているだけに、今後もこうした論争は続くだろう。
今後の注目ポイント
日本GPでメルセデスのフロントウイングが改良後にどう動くかが最初のチェックポイントとなる。油圧システムの強化が成功し、400ミリ秒以内のスムーズな閉じ動作が確認されれば、この問題は収束に向かう。一方で、もし再発すればFIAのテクニカルディレクティブ発行の可能性が高まる。
また、メルセデスのW17は他チームと異なり、フロントウイングのマウント位置を第2エレメントに設定しており、可動フラップは最上部の1枚のみという独自設計を貫いている。アストンマーティンも似たアプローチを採用しているものの、メルセデスの実装はフラップ中央に固定パネルを残すしている。開幕2戦の圧倒的な強さがこの設計思想に起因するのかどうか、ライバルチームの技術分析は今後も続く。

