ニューウェイの要望がホンダ振動問題の核心に PU短縮レイアウトが生んだ想定外の共振

ニューウェイの「短縮レイアウト」要求が振動問題の核心だった

アストンマーティンとホンダのパートナーシップを揺るがす深刻な振動問題。その核心に、エイドリアン・ニューウェイがホンダに依頼した「PUの短縮レイアウト」があったことが明らかになった。2025年にアストンマーティンへ合流したニューウェイは、エアロダイナミクスの自由度を最大化するためにパワーユニットの全長を短くすることを要望。ホンダはこれに応じ、ほぼすべての周辺機器の配置を見直す大規模な設計変更に踏み切った。

しかし、ダイナモテストでは許容範囲だった振動が、実車のカーボンファイバー製モノコックに搭載した途端に大幅に悪化。プレシーズンテストからオーストラリアGPまで、チームは根本原因の特定すらできない状態で走り続けることになった。ミラーやテールライトが脱落するほどの激しい振動は、ドライバーの身体にも深刻な影響を及ぼしている。

バッテリー二段重ね+MGU-K前方移動という野心的な設計

ニューウェイが求めたPU短縮を実現するため、ホンダは2つの大きな設計変更を行った。まず、バッテリーとコントロールエレクトロニクスを二段重ね(ダブルスタック)に配置。2026年レギュレーションではバッテリーをサバイバルセル内に収めることが義務付けられているが、ホンダの設計はルールが求める以上にアグレッシブなパッケージングとなった。

次に、MGU-Kをエンジン後方から前方へ移動させた。これによりリア側にスペースが生まれ、ディフューザー周辺のエアロデザインの自由度が大きく向上する。ニューウェイにとってはダウンフォース創出の鍵となるエリアであり、彼がこのレイアウトにこだわった理由は明確である。

2026年のF1パワーユニットでは、MGU-Kの出力が従来の120kWから最大350kWへと約3倍に引き上げられた。これに伴いバッテリーの容量・サイズも大幅に増加しており、パッケージングの難易度は以前とは比較にならないほど高い。PUの物理的なサイズをどこまで小さくできるかが、シャシー設計の自由度を直接左右するため、ニューウェイの要望自体はエンジニアリングとして合理的なものだった。

ダイナモと実車の乖離 想定外の共振現象

ホンダがベンチテスト(ダイナモ)で確認した段階では、振動は許容範囲内に収まっていた。しかし、AMR26のカーボンファイバー製モノコックにPUを搭載すると、状況は一変する。ICE(内燃エンジン)のピストン運動とMGU-Kから発生する振動の高調波が、モノコックの固有振動数と共振を起こし、破壊的な振動スパイクを生成したのである。

カーボンファイバーは剛性と軽量性のバランスに優れるが、金属と比較して振動減衰特性が低い。この素材特性が振動の増幅器として作用し、PU単体のダイナモテストでは予見できなかった問題へと発展した。ホンダの渡辺康治HRCモータースポーツ部長は、振動がシャシーとの複合的な相互作用であることを認め、ホンダ単独では問題を解決できないと明言している。

ダイナモテストではPU単体を剛体のテストベンチに固定して回すため、実車のモノコックとの共振現象は再現されにくい。F1においてPUとシャシーの統合で想定外の振動が発生すること自体は珍しくないが、今回のように根本原因の特定すら困難なケースは異例である。

ドライバーの身体を蝕む振動 神経損傷のリスク

この振動問題はマシンの信頼性だけでなく、ドライバーの安全にも直結している。フェルナンド・アロンソは「連続25周を超えると手に永続的な神経損傷のリスクがある」と証言。指先や足の感覚が麻痺する症状を訴えた。ランス・ストロールは「15周が限界」とさらに深刻な状態を報告しており、2023年のサイクリング事故で負った手首の怪我が2025年夏に手術を経ても完治していないことが影響しているとみられる。

オーストラリアGPは全58周のレースであり、両ドライバーとも完走するにはこの閾値を大幅に超える走行が必要だった。チームはステアリングコラム周辺のダンピング改良など暫定対策を試みたが、根本的な解決には至っていない。振動の伝達経路はステアリングコラムを介してドライバーの手に直接届く構造であり、ステアリングホイール自体の振動緩和だけでは不十分なのである。

ホンダとアストンマーティンの責任の所在

問題の複雑さは、PU側とシャシー側の双方に原因がある点にある。ホンダはアストンマーティンのシャシーが振動を増幅していることを指摘し、「アストンマーティンも問題の一部だ」と主張。一方でニューウェイ側は、振動の発生源はあくまでICEとMGU-Kにあるとの立場を示し、「シャシー補強による重量増はパフォーマンスの妥協」として構造変更に慎重な姿勢を見せている。

ホンダは2022年末にF1復帰を決定したが、一度解散した開発チームの再編成により経験豊富なエンジニアの多くが他プロジェクトへ移っていた。新たに編成されたチームにはF1未経験のメンバーも多く含まれており、ニューウェイの要望に対する影響評価が十分でなかった可能性がある。とはいえ、両者は春休み期間に入り共同で問題解決に取り組む姿勢を示しており、マイク・クラック代表は「ホンダとの対立はない」と強調している。

マイアミGPまでの対策

バーレーンGPとサウジアラビアGPの中止により、次戦マイアミGPまで約1か月の猶予が生まれた。この春休み期間を利用し、ホンダは信頼性向上を目的としたPUの最初のスペック変更を準備している。FIAレギュレーションでは信頼性向上またはコスト削減を目的とした仕様変更が認められており、ホンダはこの枠組みを活用する方針だ。

クラック代表は「マイアミまでに、振動の話をしなくて済むレベルのステップを踏めると確信している」と発言。ただし、ニューウェイは「ICEのバランシングとダンピングの根本的なプロジェクトが必要であり、すぐには解決しない」との見解を示しており、マイアミで持ち込まれるのはあくまで暫定的な改善策となる可能性が高い。完全な解決には、来季に向けた新しいICEの設計が必要になるとの見方もある。

今後の注目ポイント

  • マイアミGP(5月初旬)でホンダが持ち込むスペック変更の内容と効果はどうか。バッテリー保護だけでなく、ドライバーへの振動伝達も改善されるか
  • MGU-Kの回生出力制限(現状250kW以下)が解除され、本来の350kWフル稼働に近づけるか
  • ニューウェイがシャシー側の構造変更(補強)を受け入れるかどうか。エアロ性能とのトレードオフの判断
  • ホンダの開発チーム再編成の影響が今後どこまで尾を引くことになるか。PUメーカーとの開発競争における遅れ

出典:GPFans、Formula1.com

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