ホンダが、プレシーズンテストで深刻なトラブルに見舞われたアストンマーティン向けパワーユニット(PU)の問題について、原因の分析結果を公表。V6内燃エンジンから発生する「異常振動」がバッテリーシステムを損傷させていたことが判明し、開幕戦オーストラリアGPを来週に控える中、対策が急ピッチで進行中。
テストで露呈した深刻なトラブル
HRC(ホンダ・レーシング・コーポレーション)四輪レース部門の責任者である武石郁夫氏は、日本メディア向けのプレシーズンブリーフィングで問題の詳細を説明。武石氏によれば、テスト中に観測された異常な振動がバッテリーシステムを損傷させ、これが走行停止の主な原因とのこと。
武石氏は「走行を続けるべきではない状態だと判断して車両を止めた」と語り、事故の危険が差し迫っていたわけではないものの、安全上の理由から走行を中止したと説明。
問題の核心は、バッテリーパックの取り付け部分で想定を超える振動が発生していたことにあり、武石氏は「バッテリーパックが車体内で揺さぶられている状態」と表現。ただし、バッテリー自体の設計に問題があるかどうかは現時点では判断できないとしている。
複合的な要因が絡む「厄介な問題」
この振動問題が特に深刻なのは、単一の部品を修正すれば解決するような問題ではない可能性が高い点。武石氏は、エンジン、トランスミッション、シャシーなど複数のコンポーネントが相互に作用して振動を生じさせている疑いがあると指摘。
「もし原因がトランスミッションやエンジン単体に特定できれば、対処はずっと容易です。しかし、複数の要素が連動して振動を生んでいる可能性があり、1つの部品を直しただけで解決するかどうかはわかりません。長引く可能性も否定できません」と武石氏は述べている。
現在、さくら(栃木県)のHRC本拠地では、モノコックにバッテリーを搭載した状態でのベンチテストを実施し、振動の計測・分析と複数の対策を同時並行で進めており、PU側の調査と並行して、シャシー側でも対策が講じられている。アストンマーティンは必要に応じて車体側のコンポーネントを変更する意向を示している。
走行距離の圧倒的な不足
今回の問題がどれほど深刻かは、テストでの走行距離を見れば明らか。バルセロナのシェイクダウンではAMR26の完成が遅れ、わずかな周回。続くバーレーンテストでも状況は改善せず、アストンマーティンの総走行距離はわずか2,115kmに。
これはメルセデス勢(約21,500km)の約10分の1、フェラーリ勢(約16,100km)の約7分の1という数字。次に少ないキャデラック(約4,940km)と比較しても半分以下であり、ライバルとのデータ収集量の差は歴然。
| PUメーカー | バルセロナ | バーレーン第1回 | バーレーン第2回 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| メルセデス | 5,318km | 7,815km | 8,410km | 21,544km |
| フェラーリ | 4,615km | 6,121km | 5,380km | 16,116km |
| レッドブル・フォード | 2,897km | 3,626km | 3,983km | 10,506km |
| アウディ | 1,094km | 1,916km | 1,932km | 4,942km |
| ホンダ | 307km | 1,115km | 693km | 2,115km |
特に深刻だったのはバーレーン第2回テストの最終日。スペアバッテリーが尽きたことで、ランス・ストロールがインストレーションラップをわずか6周走行しただけでプログラムは終了。その前日にはフェルナンド・アロンソがコース上でストップし、赤旗の原因に。
2017年マクラーレン・ホンダとの類似点
今回の状況は、2017年にマクラーレンとのパートナーシップで経験した問題と類似点が指摘されている。当時もプレシーズンテストで新型エンジンが極めて不安定な状態に陥り、シミュレーションと実車走行との間に大きな乖離があり、オイルタンクが振動の被害を受け、仮想テストでは再現できなかったトラック上の条件が次々と問題を引き起こした。
当時のマクラーレンがエンジン全長の短縮を強く求め、いわゆる「サイズゼロ」コンセプトにこだわったことがホンダを制約したという背景もあるが、今回もアストンマーティンからエンジン全長をよりコンパクトにする要望があり、PUの周辺機器に大幅な変更が加えられた。
ただし、武石氏はレッドブル時代にはこの種の振動問題は発生しなかったとし、大幅なレギュレーション変更とPU自体の大規模な設計変更が重なったことが要因の一つだとの見方を示している。
「空白期間」の影響
HRC社長の渡辺浩次氏は、2021年末のF1ワークス活動終了後に生じた人材面の空白が影響していることを率直に認めた。渡辺氏によれば、2022年3月に多くのエンジニアが量産部門などに異動し、レッドブルへのサポートを継続する最小限のメカニックとエンジニアだけが残る状態が続いたとのこと。
2023年にアストンマーティンとの提携が発表されて以降、エンジニアの再招集が始まり、2022年の時点で新規則の大枠が決まった際には必要な人員体制が整わず、さらに、ライバルメーカーがすでに2026年規則に向けた研究開発を進めていた期間に、ホンダにはコストキャップの制約と人員不足が重なったことに。
2026年バッテリーの新設計
2026年規則では、MGU-Kの出力が大幅に引き上げられ、最大350kWの回生が可能に。これに対応するため、ホンダのバッテリーは従来の単一の平型形状から、バッテリーとコントロールエレクトロニクスを2段構造に分割する新設計を採用。
この新設計は規則の要求以上にアグレッシブなものとされており、アストンマーティンからのコンパクト化の要望を受けて周辺機器の配置も大きく変更。ホンダはダイノ(ベンチテスト)の段階でも性能・信頼性面の課題を認識していたが、実際の走行環境で発生した主要な問題は、ダイノでは検出できなかった。
開幕戦に向けた対策と目標
ホンダは「開幕戦までに振動を抑えることを目指しているが、競争力のある状態にするのは鈴鹿(第3戦・日本GP、4月末)が目標」と語りました。
PUのホモロゲーション(仕様の承認)期限は3月1日に設定されており、バーレーンで走行した仕様をベースに申請する。ホモロゲーション後も信頼性に関する変更はFIAの承認を得て実施可能だが、性能に関するアップグレードは「追加開発・アップグレード機会(ADUO)」システムにより管理される。
このシステムでは、レース1〜6、7〜12、13〜18の3期間でエンジン性能指数が算出され、トップから2〜4%以上離されている場合にのみ追加の開発が許可される。現時点で振動対策にリソースを投入することは、シーズン中の開発予算を前倒しで消費することを意味する。
渡辺氏は「今回のテストで直面した壁は、確かに高い」と認めつつも、アストンマーティンとの関係については「ローレンス・ストロール会長やニューウェイとも話をしており、開幕戦に向けて解決に集中した前向きな議論ができている」と述べた。
今後の注目ポイント
- 開幕戦オーストラリアGP(3月8日〜9日):暫定対策でどこまで信頼性を確保できるか。完走すらできるかが最初の関門
- 第2戦中国GP(3月22日〜23日):対策の進捗次第でパフォーマンスの改善幅が見えてくる時期
- 第3戦日本GP・鈴鹿(4月26日〜27日):ホンダが「競争力のある状態」を目指すターゲット。ホームレースでの結果はブランドイメージにも直結
- エンジン性能指数の第1回判定(第6戦終了後):ADUOシステムによる追加開発の可否が決まる最初のタイミング
- アストンマーティン側のシャシー対策の効果:振動はPUとシャシーの複合要因であり、ニューウェイを中心とした車体側の改善も鍵を握る
振動の問題は大変そうだな

