フェラーリは2026年F1第2戦中国GPにおいて、ヘイロー(Halo)の中央支柱に装着した小型ウイングレットをスプリントレース後に自主撤去した。FIAとの協議の中で合法性に疑義が生じたことが背景にある。
今季のフェラーリSF-26は、プレシーズンテストで登場したエキゾーストウイング、そして上部エレメントが180度反転する通称「マカレナウイング」と、空力面で攻めたデザインを次々と投入してきた。中国GPではさらに、ヘイロー前方の支柱両側に透明素材の小さなウイングレットを追加。ドライバーのヘルメット周辺の気流を整え、コクピット後方への空気の流れを最適化する狙いがあった。
スプリントまでは装着、予選前に撤去
このウイングレットは金曜のフリー走行からルイス・ハミルトンとシャルル・ルクレールの両車に装着され、土曜のスプリントレースでもそのまま使用された。車検もパスしている。しかしスプリント終了後、グランプリ予選の前に突如として取り外された。パルクフェルメ規定上、予選前に外したパーツは決勝でも使用できないため、日曜のレースにもウイングレットは登場しなかった。
「ウインドスクリーン」としての解釈
撤去の背景にはFIAからの規定解釈に関する問い合わせがあった。F1のテクニカルレギュレーションでは、ヘイロー周辺のボディワーク装着は厳しく制限されている。フェアリングの取り付けが認められているのは「RV-HALO」と呼ばれるヘイロー上部の限定領域のみだ。では、フェラーリはなぜ中央支柱の下部という他チームが手を出さなかったエリアにウイングレットを配置できたのか。
その鍵は素材にある。ウイングレットはカーボンファイバーでも金属でもなく、透明素材で作られていた。F1の技術規定の中で、透明素材の使用が義務付けられている部品はただ一つ、ウインドスクリーン(防風板)だけである。フェラーリはこのウイングレットをウインドスクリーンの規定に基づく部品として設計したとみられている。
ウインドスクリーンに関する規定では、高さ30mm以下、幅600mm以下(中心線から左右300mm)、厚さ3mm以下の透明素材をコクピット前方に取り付けることが認められている。フェラーリはこの寸法制約の範囲内で、空力効果を持つ形状のウインドスクリーンを成立させようとしたわけである。
FIAが問題視した2つのポイント
FIAがフェラーリに問い合わせたのは主に2点だった。第一に、ウイングレットの形状がウインドスクリーンの厳密な定義に合致するかという点。第二に、素材の問題である。規定では、ヘイローに装着するフェアリングはArticle C15.5.2で定められた特定のラミネート素材で構成しなければならないとされており、フェラーリが使用した透明素材はそのリストに含まれていなかった。
フェラーリは完全に違法と断定されたわけではないが、スプリント週末の忙しいスケジュールの中で規定解釈の議論に時間を費やすことを避けた。加えて、ライバルチームからのプロテスト(抗議)のリスクも考慮された。得られるゲインはコンマ数秒程度とされ、好成績を危険にさらす価値はないと判断したのである。
2018年スペインGPの前例
フェラーリがヘイロー周辺で規定の境界線を攻めるのは初めてではない。2018年のスペインGPでは、ヘイローにミラーと小型フィンを取り付けるデザインを投入したが、FIAはこれをマウントを利用して空力性能を得る意図的な設計と判断し、そのレース後に禁止とした。今回のウイングレットと直接の比較はできないが、フェラーリがヘイロー周辺の規定解釈で境界線を探る姿勢は8年前と共通している。
マカレナウイングは日本GPで再テスト予定
ヘイローウイングレットの今後については、FIAとの協議次第で復活の可能性が残されている。フェラーリが合法性の論拠でFIAを納得させられれば再投入もあり得るが、得られるゲインが小さいことを考えると、最終的に投入を断念する可能性もある。
一方、中国GPのフリー走行で試されたマカレナウイング(反転式リアウイング)については、チーム代表のフレデリック・バスールが日本GPでの再テストを明言している。バスールはパーツの走行距離を積み重ねる必要があるとした上で、信頼性が確認できればレース週末を通じて投入する意向を示した。
今後の注目ポイント
・FIAとフェラーリの協議結果。ヘイローウイングレットの合法性が明確になれば、他チームも同様のエリアでの開発に動く可能性がある
・日本GP(3月29日・鈴鹿)でのマカレナウイング再テストの成否。フリー走行で走行距離を積み、レースでの実戦投入に踏み切るかが焦点
・FIAがヘイロー周辺の空力開発を制限するテクニカルディレクティブ(技術指令書)を発行するかどうか。安全装置であるヘイロー周辺での空力競争の拡大を、FIAがどこまで許容するかは今後の論点となる
・2026年レギュレーション下での「グレーゾーン開発」の行方。フェラーリの攻めた姿勢がシーズンを通じてどのような影響を及ぼすか

