アストンマーティン振動問題、4月休止期間で初のフルスペック対策完成へ クラック代表「マイアミでは話題にしなくて済む」

クラック代表「マイアミでは振動を話題にしなくて済む」

アストンマーティンのマイク・クラック代表が、5月1日開幕のマイアミGPに向けて振動問題への抜本対策に強い自信を示した。「マイアミでは、振動について話さなくて済むレベルのステップアップを実現できると、かなり確信している」開幕から3戦にわたりチームを苦しめてきた問題に対する、初めて明確なターニングポイント宣言だ。

AMR26の振動問題は、2026年シーズンのF1で最も深刻な技術トラブルとして注目を集めてきた。開幕戦オーストラリアGPではエイドリアン・ニューウェイ自身が「リタイアのリスクがある」と認め、第2戦中国GPではフェルナンド・アロンソが走行中に手足の感覚を失いリタイア。ランス・ストロールは車内の振動を「電気椅子のようだ」と表現した。第3戦日本GPでようやくアロンソが18位で初完走を果たしたが、それでも周回あたりのペースはトップから約2秒遅れという状況だった。

日本GPで「約束のパーツ」をテスト、しかしレースでは外す判断

転機は日本GPの金曜フリー走行にあった。アストンマーティンは振動を抑制する新しいパーツステアリングコラム周辺の振動ダンピング構造と見られるものを投入し、アロンソは「車がまったく普通に感じた。振動はほぼなかった」「80%改善された」と報告した。

ところが、チームはこのパーツを土曜以降のセッションから取り外す判断を下した。クラックは「新パーツを持ち込むことには常にリスクが伴う。信頼性の判断をする際にはそれを考慮する必要がある」と説明。金曜セッションの走行データから、パーツの耐久性に懸念が生じたことが理由とされる。

アロンソはこの判断について「予選では以前と同じ振動が戻った」「何も変えていないのに(振動の有無が変わるのは)少し理解しがたい」と困惑を見せた。なお、アロンソは第一子の誕生に立ち会うため木曜に遅れてサーキット入りしており、通常より情報共有が不十分だった可能性がある。

4月休止期間を使った「初のフルスペック変更」

日本GP後、F1カレンダーにはバーレーンGP・サウジアラビアGPのキャンセルに伴う約1か月の中断期間が設けられている。アストンマーティンとホンダは、この期間をフルに活用して振動対策の最終調整を行っている。

これまでの対策はすべて段階的なものでPU側かシャシー側の個別パーツ単位での変更にとどまっていた。しかしマイアミGPでは、シャシーとPUの両面にまたがる初の包括的なスペック変更が予定されている。クラックが「振動を話題にしなくて済む」と言い切った背景には、個別対策の積み重ねではなく、統合的な解決策を一度に投入できる体制が整ったことがある。

F1の4月中断期間は、通常シーズン中に許されるファクトリーシャットダウンとは異なり、今年はカレンダー変更による偶発的なギャップ。チームは通常どおり開発作業を継続できるため、アストンマーティンにとっては事実上の「追加開発期間」となっている。日本GP金曜のデータが信頼性問題さえなければ有効だと証明されたことで、この1か月の開発に明確な方向性を与えたことが大きい。

ホンダ側の見解「PU単独の問題ではない」

ホンダ・レーシング・コーポレーション(HRC)の渡辺康治社長は、振動問題の本質について重要な説明を行っている。渡辺によれば、ダイノ(テストベンチ)上ではPUの振動は許容範囲内に収まっているが、AMR26の実車に搭載すると振動がダイノテスト時をはるかに上回るレベルに達するという。

これは、PU単体の振動がカーボンモノコックの固有振動数と干渉し、共振によって破壊的に増幅される構造的な問題であることを示している。エンジンマウントの剛性、リアエンド構造のジオメトリー、シャシーの補強構造複数の要素が絡み合っており、単一のコンポーネント変更では根本解決に至らなかった理由がここにある。

共振とは、外部からの振動がその物体の固有振動数と一致したとき、振動が急激に増幅される物理現象。身近な例では、橋の上を行進する兵士の足並みが橋の固有振動数と一致し、崩落を引き起こした事例が知られている。F1マシンの場合、PUの回転振動がカーボンファイバー製のモノコックを通じて増幅され、コックピットにまで深刻な振動として伝わっている。ダイノではPUが金属製のテストベンチに固定されるため、この共振は発生しない。

ニューウェイ設計の「副作用」

この問題の背景には、AMR26のパッケージングコンセプトが関係している。ニューウェイはホンダに対し、PUの全長短縮を要望していた。これに応えるため、ホンダはバッテリーの二段重ね配置やMGU-Kの前方移動といった大胆なレイアウト変更を採用した。しかし、その結果リアエンド周辺のスペースが極めてタイトになり、振動ダンピングや熱膨張の余裕が失われた。

複数のメディアは、このコンパクトなリアエンドパッケージングが共振源を副次的に生み出した可能性を指摘している。AMR26のリアボディワークはグリッド上で最もコンパクトな部類に入り、想定外の共振に対するマージンがほとんどなかった。

スーパークリッピング緩和も追い風

振動対策とは別のルートから、アストンマーティンに好材料が加わる可能性がある。FIAが4月20日に予定している2026年レギュレーション修正の最終会議で、スーパークリッピングの上限引き上げ(現行250kWから350kWへ)が可決されれば、MGU-Kの回生負担が変わることになる。

スーパークリッピングとは、ドライバーがフルスロットル状態のままMGU-Kがエンジン出力の一部を回収してバッテリーを充電するモード。現行ルールでは回収量の上限が250kWに制限されているが、350kWに引き上げられれば、リフト&コーストの頻度が減り、エネルギー回生の効率が向上する。副次的な効果として、MGU-Kの動作パターンが変わることで、PUが生み出す振動の周波数特性にも変化が生じ、現在のシャシーとの共振を緩和する可能性が指摘されている。

今後の注目ポイント

  • マイアミGP(5月1〜3日)で投入される「フルスペック変更」が、振動をどの程度抑制できるか。クラックの「話題にしなくて済む」宣言が現実となるかが最大の焦点
  • 4月20日のFIAレギュレーション修正最終会議の結果。スーパークリッピング上限引き上げが可決されれば、振動問題の副次的緩和にも寄与する可能性
  • アロンソとストロールのフィジカルコンディション。日本GPで初完走したとはいえ、過去3戦で蓄積された振動ダメージの影響が残っていないか
  • ホンダ第2章の正念場。2026年のアストンマーティン・ホンダはニューウェイ加入で期待が高かっただけに、振動問題のクリアは日本のファンにとっても大きなマイルストーンとなる

出典:The Race

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